宮本顕二

デンマークやスウェーデンには、いわゆる寝たきり老人はいないと言われています。イギリス、アメリカ、オーストラリアにも寝たきり老人はほとんどいないそうです。一方、我が国のいわゆる老人病院には、一言も話せない、胃ろうが作られた寝たきりの老人がたくさんいます。 日本の医療水準は決して低くありません。むしろ優れているといっても良いくらいです。 ストックホルム近郊の病院や老人介護施設には、予想通り、寝たきり老人は1人もいませんでした。胃ろうの患者もいませんでした。その理由は、高齢あるいは、がんなどで終末期を迎えたら、口から食べられなくなるのは当たり前で、胃ろうや点滴などの人工栄養で延命を図ることは非倫理的であると、国民みんなが認識しているからでした。逆に、そんなことをするのは老人虐待という考え方さえあるそうです。 ですから日本のように、高齢で口から食べられなくなったからといって胃ろうは作りませんし、点滴もしません。肺炎を起こしても抗生剤の注射もしません。内服投与のみです。したがって両手を拘束する必要もありません。つまり、多くの患者さんは、寝たきりになる前に亡くなっていました。寝たきり老人がいないのは当然でした。 さて、欧米が良いのか、日本が良いのかは、わかりません。しかし、全くものも言えず、関節も固まって寝返りすら打てない、そして、胃ろうを外さないように両手を拘束されている高齢の認知症患者を目の前にすると、人間の尊厳について考えざるを得ません。